研究内容

分子免疫学研究室の研究概要

 身体の組織は細胞と細胞以外の物質に分けられ、細胞以外の物質を細胞外マトリックスと総称されます。古くは、細胞外マトリックスは細胞間の詰め物としか考えられておりませんでしたが、その後の研究により細胞外マトリックスは細胞接着能を有すること、さらに細胞の移動、分化、増殖など多くの細胞機能を積極的に担っていることが分かってきました。さらに、がんや自己免疫疾患といった多くの難治性疾患において細胞外マトリックスの増加や構造変化が起こり、異常な細胞接着が生じることが分かってきております。細胞外マトリックスの受容体としてインテグリンという細胞膜上に発現する分子群が見つかったことから、細胞外マトリックスとインテグリン間相互作用研究により、新たな難治性疾患における治療薬開発に発展できることが期待できます。
 本研究室では、免疫疾患における細胞外マトリックスとインテグリン間の細胞接着の意義を明らかにするために、細胞接着を人為的に制御できるような抗体等の武器を開発し、さらに治療薬への応用を目指して研究を進めております。以下、具体的な当研究室における研究内容をご紹介致します。


ユニークな視点からの細胞外マトリックス-インテグリン間相互作用阻害剤の開発


当研究室の今教授らは、インテグリンファミリーの1つであるα9インテグリンに着目した研究を進め、開発したα9β1インテグリンに対する中和抗体を用いることでα9β1インテグリンが、炎症性関節炎の発症、増悪化に密接に関与し、ヒト関節リウマチ患者由来滑膜線維芽細胞からの炎症性サイトカイン発現にも重要な機能を有することを明らかにしてきております。一方、インテグリンは、通常の生体機能においても重要な役割を演じているので、機能阻害により身体に大きな不都合を生じることがある可能性が高いため、身体に優しい阻害剤開発が期待されていることから、当研究室では新しいインテグリン阻害のアプローチを用いて阻害剤開発を試みていおります。

インテグリンは活性化に伴いダイナミックな構造変化を生じることから、インテグリン自身を標的とするのではなく、インテグリン活性化に関与する分子を阻害することでインテグリン機能を阻害する方法を行ってみようと考えました。α9インテグリン研究を進めた結果、α9インテグリンスプライシングバリアントSFα9を同定し、SFα9はα9インテグリンとリガンドとの接着を亢進させる内在的α9インテグリン特異的活性化因子であることを突き止めました。質量分析法によりSFα9結合分子としてあるケモカインと薬物酸化酵素を同定したことから、これら分子に着目した研究を行っております。

 


α4インテグリンは、α9インテグリンと同一のインテグリンファミリーであり、がん転移や自己免疫疾患に関与することが分かっております。これまで、α4インテグリンスプライシングバリアントSFα4を同定し、SFα4は分泌型インテグリンであること、インテグリンを介した接着抑制できる能力があることを発見しました。このSFα4の特徴的機能は、内在性分子機能であるため、生体の恒常性維持に重要な役割を担っていると考えられます。これまで報告されているインテグリン阻害剤の中で、このような特徴的な機能を有する物質は得られていないことから、生体内機能を利用した生体に優しい(副作用の少ない)治療薬に繋がると期待できます。

線維化疾患は、アンメットメディカルニーズの代表的な疾患です。αvβ8インテグリンは、TGF-βを活性化させることが報告され線維化との関与が報告されており、β8インテグリンに着目した研究を進めた結果、β8インテグリンスプライシングバリアントSFβ8を見出し、SFβ8の線維化疾患増悪化との関連性を研究していく予定です。

細胞外マトリックスと疾患への関与の検討


近年、免疫抑制性T細胞である制御性T細胞(Treg)の機能を利用した医薬が登場し、有効性が示されておりますが、制御性B細胞(Breg)に関しては、疾患発症に重要な細胞として注目されているものの、未知な点が多いことからBreg機能を用いた医薬は開発されておりません。当研究室のこれまでの研究から、細胞外マトリックスであるネフロネクチン(Npnt)が、制御性B細胞に関与する可能性を得たことから、現在、この仮説を証明するため、Npntの機能部位の探索やその領域に対する抗体を作製することでNpntとBregとの関連性を明らかにすることを目的に実験を進めております。


 細胞外マトリックスのオステオポンチンは、我々のこれまでの研究からがんや自己免疫疾患等多くの疾患増悪化に関与していることを報告しております。当研究室では、自ら開発した阻害抗体を有していることから、今後は、オステオポンチンの線維化や非アルコール性肝炎(NASH)モデルの検討を行う予定を計画しております。